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釧路地方裁判所北見支部 平成5年(ワ)48号 判決

原告 近嵐誠治

右訴訟代理人弁護士 今暸美

今重一

木村達也

宇都宮健児

長谷川正浩

小松陽一郎

藤田裕一

藤森克美

内村修

永尾廣久

山本政明

米倉勉

石口俊一

高崎暢

山本行雄

安保嘉博

藤本明

伊藤誠一

石田明義

中村宏

市川守弘

折田泰宏

加島宏

田中稔子

我妻正規

被告 北見信用金庫

右代表者代表理事 小森芳晴

右訴訟代理人弁護士 荻原怜一

塚田渥

水原清之

杉村英一

愛須一史

被告 国

右代表者法務大臣 長尾立子

右指定代理人 安達敏男

吉永元男

大谷久

大場浩

田中邦夫

加藤明雄

沼田正志

松田淳一

菅原康男

西田貞雄

清水武

川村雄司

渡辺利隆

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告北見信用金庫(以下、「被告金庫」という。)は、原告に対し、金一八万〇六六八円及びこれに対する平成五年四月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告に対し、各自金一一〇万円及びこれに対する平成五年八月一〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告金庫に対し、被告金庫がした、原告に対して有する保証債務履行請求権(被担保債権は貸金債権)を自働債権とし、原告が被告金庫に対して有する預金債権を受働債権とする、約定相殺ないし法定相殺は違法無効であるとし、相殺にかかる金額を不当利得としてその返還を求めるとともに遅延損害金の支払いを求め、加えて、相殺が無効であることを知りつつあえてこれを行った被告金庫の行為は不法行為に該当するとして、慰謝料等の損害賠償及び遅延損害金の支払いを求め、被告国に対し、被告金庫が違法無効となる相殺をしないよう指導監督する義務があるのにこれを怠った不法行為があるとして、慰謝料等の損害賠償及び遅延損害金の支払いを求めるものである。

一  争いのない事実等

1  原告は、平成三年六月三日から平成五年四月一九日までの間、被告金庫の若葉支店に、普通預金口座(口座番号〇二〇三一一。以下、「本件預金口座」という。)を開設していた(争いない、≪証拠省略≫)。

2  原告は、被告国から、昭和六二年七月から老齢厚生年金を、平成四年六月から併せて老齢基礎年金の支給を受けており(以下、両者を併せて「国民年金」という。)、かつ、昭和六三年七月からは労働者災害補償保険金(以下、「労災保険金」という。)の支給も受けていた(争いない)。

3  原告は、国民年金及び労災保険金の受給方法につき、いわゆる振込払の方法を選択したため、被告国は、原告の指定にかかる金融機関である被告金庫北光支店の原告名義の預金口座に老齢厚生年金及び労災保険金を振り込んでいたが、原告の口座変更の申出に応じて、平成三年一〇月からは被告金庫の若葉支店の本件預金口座に振り込むことになった。老齢基礎年金については、原告の指定に基き当初から本件預金口座に振込まれていた。そして、被告国は、国民年金の支払いとして平成五年二月一五日に四二万二八三二円を、労災保険金の支払いとして同年三月二三日に一六七万三三一六円(以下、「本件労災保険金」という。)を本件預金口座にそれぞれ振込んだ(争いない、≪証拠省略≫、原告本人)。

4  被告金庫と原告は、平成元年八月一六日、訴外豊岡守(以下、「豊岡」という。)が被告金庫に対して負担する金一五〇万円、利息年八パーセント、最終弁済期平成五年八月一〇日、平成元年九月一〇日を第一回とし以後毎月一〇日に元利均等割賦償還の方法により金三万六六一九円を四八回で返済する貸金債務について、原告を連帯保証人とする旨の連帯保証契約を締結した(争いない、≪証拠省略≫)。

5  原告の代理人である今瞭美弁護士は、被告金庫に対し、平成五年四月一日到達の書面で、原告は怪我のため病院通いをしていて仕事ができなくなったことから今後の債務の弁済は不可能な状態にある旨を通知した(争いない、≪証拠省略≫)。

6  これに対して、被告金庫は、前記貸金債権につき、豊岡との間で締結した信用金庫取引契約で定められた期限の利益喪失事由に該当するとして、同月二日付けの書面で、保証人である原告に対し、貸金債務の残額を一括して弁済するよう催告し、右書面は原告に到達した。そして、被告金庫は、平成五年四月九日、前記信用金庫取引契約で定められた差引計算の規定に基き、原告に対して有する保証債務履行請求権(貸付残金一七万九四八八円と右当日までの遅延損害金一一八〇円の合計金一八万〇六六八円)と、原告の被告金庫に対する本件預金口座にかかる預金債権三六万〇五七〇円を対当額で相殺する旨の処理(以下、「本件相殺処理」という)を行った(争いない、≪証拠省略≫)。

7  なお、被告金庫は、原告に対し、同月一六日到達の書面で、本件相殺処理を行った旨通知(以下、「本件相殺通知」という。)した(争いない、≪証拠省略≫)。

二  本件の争点

1  被告金庫による本件相殺処理は約定による相殺として有効といえるか。

(原告の主張)

原告は、そもそも被告金庫から金銭消費貸借契約書の交付を受けておらず、更に信用金庫取引約定書には署名・押印すらしていないのであるから、これらに記載された相殺処理の約定に原告が拘束されるいわれはなく、本件相殺処理は無効である。

仮に、本件相殺処理が約定に基づくものとしても、国民年金及び労災補償金の受給権はいずれも質権の設定等が禁止されている(国民年金法二四条、厚生年金保険法四一条一項、労働者補償保険法一二条の五第二項)ところ、本件相殺処理は、実質的に見れば質権の設定と同視しうるものというべく、脱法的なものとして許されるべきではない。

(被告金庫の主張)

原告と被告金庫との間の契約書である金銭消費貸借契約書には、「保証人は、債務者がこの約定によって負担するいっさいの債務について、債務者と連帯して保証債務を負い、その履行については、債務者が別に差し入れた信用金庫取引約定書の各条項のほか、この約定に従います。」との定めがあるほか、原告と豊岡との関係に照らせば、原告は信用金庫取引約定書の内容を知っていたか、少なくとも認識し得たものであって、本件相殺処理は適法有効なものである。

また、本件相殺処理は、質権の設定と同視されるようなものでなく、脱法的なものではない。

2  本件相殺通知が原告に送達された時点で法定相殺されたとみることができるか。

(被告金庫の主張)

仮に、本件相殺処理をもって有効な約定相殺とみることができないとしても、本件相殺通知は法定相殺の意思表示を兼ねたものであり、本件相殺通知が原告に到達した以上、本件においては法定相殺の要件が満たされている。

3  相殺の対象となった受働債権は差押等禁止債権でありこれを相殺に供することは差押等禁止の強行規定に反するとして無効となるか。

(原告の主張)

国民年金及び労災保険金の受給権はいずれも差押等禁止債権であるところ(国民年金法二四条、厚生年金保険法四一条一項、労働者補償保険法一二条の五第二項)、被告金庫は、被告国から年金等の取扱指定金融機関に指定されることにより、その口座に被告国からの年金等の振込を受けることができるのであり、実質的には年金等の支払義務者である被告国の履行補助者にすぎないというべく、被告国からの給付が年金等の受給者である原告の本件預金口座に振込まれた場合にあっては、原告に対しては、年金等が確実に支払われるように配慮する法的義務を負担しているというべきである。また、本件預金口座は年金給付を受けるために開設された普通預金口座であり、しかも、本件労災保険金が振込まれる直前の本件預金口座の残高は五万七八二四円にすぎず、本件労災保険金が振込まれた後も本件相殺処理までに順次引き出しがされていて、少なくとも本件相殺処理が行われた時点においては、本件預金口座に存在した金員はすべて労災保険金として被告国から原告に支給されたものと解すべきである。したがって、本件における受働債権は、年金等の受給権そのものというべきである。仮に年金等の受給権が本件預金口座に振込まれることにより預金債権に転化したものであるとしても、差押等禁止債権としての属性を引き継ぐものというべきである。しかるに、被告金庫は、年金等の振り込みによって生じた預金債権であることを知りながらこれを受働債権として相殺しているのであって、右は前記法的義務に反するとともに、差押等禁止規定に反するものというほかなく、相殺は無効である。

(被告らの主張)

原告は受給方法として振込払方式を選択しているところ、この場合にあっては、被告国は本件預金口座に年金等を振込むことにより支払いを完了したと解すべきであり、原告は、被告金庫に対して、右受給権が転化したところの預金債権を有することとなると解すべきである(被告金庫は、原告の委託を受けて、年金等の受取りを代行していると見るべきであって、被告金庫は、被告国の履行補助者と見られるべきでない。)。そして、本件預金口座は年金等の受給のみを目的としているものではなく、生命保険金の入金、貯蓄を兼ねての原告の一般財産の管理に利用され、しかも被告金庫との取引の信用供与を受けるためにも利用されているものであるから、年金等の受給権は受給者の預金口座に振り込まれて預金債権に転化し受給者の一般財産に混入しているというべく、本件の相殺にかかる受働債権たる預金債権は、年金等受給権が有していた差押等禁止債権としての性格を失っていると解すべきである。

4  差押等禁止規定に反し無効とはいえないとしても、本件において、相殺は信義に反するものとして無効ではないか。

(原告の主張)

被告金庫は、年金受給者に対し、年金が口座に振込まれた後は預金債権となり、差押や相殺の対象となるなどの危険性については一切説明せずに、「簡単・安全・便利」などとして年金のための振込口座の開設を勧誘しており、そのような勧誘の結果、原告は本件預金口座を振込口座として指定したのであるから、このような勧誘を行って振込口座としての指定を受けた被告金庫による相殺は信義則に反する。

(被告金庫の主張)

信義に反するような事情は存在しない。

5  被告金庫による相殺は、原告に対する不法行為となるか。

(原告の主張)

被告金庫は、差押等禁止規定に反し違法ないし信義に反し無効となることを知りながら、あえて相殺を行ったのであって、これによって、原告は、公共的機関として信頼を寄せていた信用金庫から裏切られて精神的打撃(一〇〇万円)を受け、さらに弁護士費用相当額(一〇万円)の損害を被った。

(被告金庫の主張)

相殺が違法ないし信義に反することを前提とする原告の主張は失当である。

6  被告国には不法行為責任を問われる義務違反があるか。

(原告の主張)

被告国は、差押等禁止規定により、受給者が直接受給することが定められている年金受給権等の債権については、振込払の方法によって金融機関に年金等を振込む場合には、当該金融機関が相殺などを行うことによって受給者が年金等を受給できなくなることがないように当該金融機関を指導する義務を負っている。被告金庫が相殺を行なったのは、被告国が右義務を果たさなかったためであり、相殺が行われたことによって受けた原告の精神的打撃(一〇〇万円)及び弁護士費用相当額(一〇万円)の損害について、被告国も不法行為に基づいて賠償する義務を負っている。

(被告国の主張)

年金等が受給者の指定する金融機関に振込まれた後に、振込先金融機関が相殺することのないように、被告国が指導しなければならないとする法律上の規定は存在せず、その義務がないことは明白である。

第三争点に対する判断

一  争点一について

証拠(≪証拠省略≫、原告本人)によれば、被告金庫の主張する約定相殺の定めは、豊岡と被告金庫との間で締結された信用金庫取引契約の約定書(昭和六一年四月二五日付)に差引計算の定め(期限の利益喪失等によって信用金庫に対する義務を弁済しなければならない場合には、その債務と私の預金等の債権とを、その債権の弁済期のいかんにかかわらず、信用金庫はいつでも、事前の通知及び所定の手続きを省略して、相殺できる旨)として記載されていること、原告は豊岡と被告金庫の間の金銭消費貸借契約書の連帯保証人欄に署名押印して被告金庫との間で連帯保証契約を締結したところ、右契約証書には、「保証人は、債務者がこの約定によって負担するいっさいの債務について、債務者と連帯して保証債務を負い、その履行については、債務者が別に差し入れた信用金庫取引約定書の各条項のほか、この約定に従う。」旨の定めがあることが認められる。たしかに前記差引計算の定めは信用金庫取引約定書に記載された条項としていわゆる普通契約約款であって、附合契約たる信用金庫取引契約の当事者であれば右条項をいちいち具体的に確認しなくてもこれをすべて承認したものと認められると解しうるところではある。しかしながら、他方、前掲証拠によれば、原告は自動車運転手などとして民間企業で働いてきたいわゆる勤労者であり、被告金庫を含む金融機関との間で手形貸付、当座貸越などの継続的取引関係をもったことはなかったこと、原告は、前記連帯保証契約の締結に際して、被告金庫から、豊岡は被告金庫との間で信用金庫取引契約を締結していること及び右取引契約には前記差引計算の定めがあることの説明はされなかったし、前記信用金庫取引契約書を見せられることもなく、前記金銭消費貸借契約証書の写しも交付されなかったことが認められ、右によれば、原告はそもそも信用金庫取引契約自体の当事者ではないのであり、かつ、信用取引約定書の前記差引計算の条項を具体的に認識していたあるいは認識し得たとはいえないというべく、前記差引計算の条項に依るとの意思をもって保証契約を締結したとすることはできないといわねばならない。原告は、前記差引計算の約定に拘束されないのであって、本件相殺処理のみをもってしては有効な約定相殺とは認められないというべきである。

二  争点2について

証拠(≪省略≫)によれば、豊岡と被告金庫間の前記信用取引約定書には、保証人につき債権保全を必要とする相当の事由が生じたときは債務者は信用金庫の請求により期限の利益を喪失する旨の定めがあることが認められ、原告の代理人である今瞭美弁護士は、被告金庫に対し、平成五年四月一日到達の書面で、原告は怪我のため病院通いをしていて仕事ができなくなったことから今後の債務の弁済は不可能な状態にある旨を通知したことは前記のとおりであり、証拠(≪省略≫)によれば、被告金庫は、同月二日、債務者である豊岡に対し、貸金債務の残額を一括弁済するよう催告したことが認められ、被告金庫は同時に保証人である原告に対しても一括弁済を求めたことは前記のとおりである。右によれば、豊岡が貸金債務につき期限の利益を喪失したことは明らかである。ところで、主債務者が期限の利益を失った場合には、保証人も同様に直ちに弁済する義務を負うと解すべきである。すなわち、保証債務は主たる債務の担保を目的とするものであり、主たる債務の範囲・態様に変化が生じれば、その内容が加重された場合は別として、これに応じて範囲・態様を変化するものであるが、期限の利益を喪失して一時に直ちに弁済すべき債務は、本来の主たる債務そのものであり、これによって同一性が失われるものではなく、保証契約の趣旨として、ここまで責任を負うというのが当事者間の通常の意思と考えられるからである。本件にあっては、原告の保証債務の期限も到来したというべきである。

次に、本件相殺通知は、相殺処理したことを通知するものに過ぎないが、実質的にみれば、相殺の意思表示と内容的に大きく異なるものでなく、これをもって相殺の意思表示と解しても原告にとって不意打ちになるものでなく、利息計算等でも原告に特に不利益となるものではないというべきである。したがって、本件においては、本件相殺通知が到達した平成五年四月一六日をもって、被告金庫による本件相殺処理は法定相殺として有効要件を具備することとなったと解するのが相当である。

三  争点3について

まず、法定相殺の対象となった受働債権の法的性格について検討する。

被告金庫は被告国から年金取扱金融機関の指定を受けていること、原告は、国民年金及び労災年金の支払い方式につきいわゆる振込払の方式を選択し、振込先として被告金庫の本件預金口座を指定したこと、これを受けて被告国は、被告金庫の本件預金口座に国民年金及び労災保険金を直接振り込み、原告に対して事前に振り込み通知書を発送したことは当事者間に争いがない。ところで、振込払の方式が選択された場合にあっては、年金取扱金融機関は、国に代わって年金等の支払いを行うものとみるべきではなく、むしろ、受給者に代わって年金等を受領するものというべきである。そして、指定預金口座に振込まれることによって年金等の受給権は消滅し、同時に預金口座に預金が形成され、口座開設者たる年金等受給者は年金取扱金融機関に対して預貯金の払戻請求権を有することとなると解するのが相当である。本件における受働債権は年金等の受給権そのものではなく、それらが転化したところの預金債権とみるべきであって、これらを相殺に供することがただちに差押等禁止の規定に違反することにはならないというべきである。

次に、年金等の振り込みによる預金債権も差押禁止の対象とならないかにつき検討する。

たしかに、年金等のように差押ができない旨定められている給付については、それらが受給者の預金口座に振り込まれた場合においても、受給者の生活保持の見地から右差押禁止の趣旨は十分に尊重されてしかるべきではある。しかしながら、一般的には預金口座には差押等禁止債権についての振込み以外の振込みや預入れも存在するのであって、年金等は預金口座に振込まれると受給者の一般財産に混入し、年金等としては識別できなくなるといわざるを得ず、このようなものについてまで差押を禁止することとなると取引秩序に大きな混乱を招く結果となるというべきである。したがって、差押等禁止債権の振り込みによって生じた預金債権は、原則として、差押等禁止債権としての属性を承継しないと解するのが相当である。

証拠(≪省略≫、原告本人)によれば、原告は、本件預金口座を、その開設当初から解約に至るまでの間を通じて、国民年金及び労災保険金の入金のほかに、被告金庫以外の金融機関及び生命保険会社からの入金並びに原告自身による金員の預け入れ、キャッシュカードによる引き出し及び保険の掛金の支払い等に多数回利用していたことが認められ、右によれば、本件預金口座は原告の日常の財産管理のためのものであって、国民年金及び労災保険金は本件預金口座に振込まれることにより原告の一般財産に混入し、その識別ができないものとなっているというほかないから、本件預金口座にかかる預金債権は差押等禁止の属性を承継していないというべきである。なお、原告は本件労災保険金が振り込まれた時点以後は、本件預金口座に存在した金員はすべて労災保険金であると識別される旨主張するが、年金等以外の入金、支払いが継続して多数存在する以上、年金等が振込まれる直前の残高及び振込みにかかる年金等の金額のみをもって当該預金口座にかかる預貯金払戻請求権がすべて年金等が振り込まれた金員を対象とすると断定することはできないというべきである。本件における相殺は差押等禁止規定に反するものではない。

四  争点4について

原告の本件預金口座開設は年金等の受給のみを目的としてなされたものではないことは前記のとおりであり、証拠(≪省略≫、原告本人)によれば、原告は、被告金庫による「簡単・安全・便利」などとする勧誘とは無関係に、本件預金口座を開設したことが認められ、被告金庫は原告に対し保証債務を履行するよう平成五年四月二日付けの書面で催告したうえで、同月九日になって本件相殺処理を行ったことは前記のとおりである。右の事実関係の下では、被告金庫による相殺は信義則に反するとはいえないことは明らかである。

五  結論

以上のとおりであって、本件における相殺は違法ないしは信義に反するといえないのであるから、その余について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 齋藤大巳 裁判官 潮見直之 馬場純夫)

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